2003年度 活動報告

【はじめに】
相思社は甘夏事件以来、水俣病を伝えることを活動の中心においてきた。1995年の政治決着を経て、水俣病患者が普通に暮らせる地域づくりにも積極的に 関わるようになってきた。そのことは2001年答申において「患者とのつきあい」「水俣病を伝える」「地域との主体的な関わり」を活動の三つの柱に据える ことによってより明確になった。
しかしながら一方ではヨハネスブルグ・サミット参加問題に端的に表れているように、「水俣病を伝える」と言いながら「何を伝えるのか」が明確になっていない、組織運営についても旧態依然とした部分を残しているなど根本的な課題を克服できていないことが明らかになった。
このような状況で、2004年度に相思社30周年を迎えようとしている。
組織、運営面では、将来の運営委員会を見据えてアドバイザー委員会を設置し、まさに相思社の存在理由に関わる議論がなされた。また、組織改革としてス タッフ&パート制を導入し、スタッフは相思社の運営全体に責任を持つものとした。スタッフとしてのの意識を高めることを目的として、すべてのスタッフは水 俣病事業、支援事業、総務部に少なくとも一つ以上の職務を持つことにした。
スタッフ制は職員の意識改革(=能力とやる気を引き出す)ことが目的であった。同時に給与体系も抜本的に変更した。設立以来の「全職員一律給」の考えを 捨て、仕事の中身と成果によって給与を決める、いわば能力給に移行した。これも職員の能力とやる気を引き出し、また、能力のある新しい職員を迎えることを 目的としていた。
1年が過ぎ形の上では完全にスタッフ制に移行したが、職員の意識改革、活動面における改革がうまく進んだとは言い難い部分もみられる。この結果を個々の職員も組織としての相思社もシビアに受け止め、今後の糧としなければならない。
昨年度理事会の指摘を受けて、報告書の形式について変更することとした。「水俣病事業」、「支援事業」、「総務部」及び「30周年事業」の各部門ごとに総括報告することにし、従前の各担当からの活動報告は総括報告を補足するものとして位置づけた。

【相思社30周年事業】
2004年11月開催予定の記念イベントに向けて実施計画が定まり、担当職員は準備を進めている。30周年を単なる通過点とすることなく、一つの総括と して、また、今後につなぐ糧として位置づけている。現時点においては、多少の遅れは見られるもののほぼ順調に推移している。ただ、記念イベントのうち講演 についてはまだ講演者が決まっていないので、早急に決める必要がある。

【水俣病事業】
水俣病事業は相思社の活動の中心であるが、内容が多岐にわたっており、今後整理する必要がある。
(1) 患者とのつきあいの深化・拡大
患者との関係性を運動支援ではなく暮らしの中からとらえ直し、患者が暮らしやすい地域を目指すものである。既存の患者連合・連盟事務局としての活動や聞き取り調査を超える活動としては、手探り状態であるが、患者調査が始動し、忘年会を外へ呼び掛けて行うことを試みた。

(2) 水俣病事件を伝える活動の拡充
案内料収入が過去最高となり、水俣を訪れる人に対して「水俣病を伝える」ことは財政面も含めて大きな比重の活動として定着していると言える。一方で、伝 える内容や伝え方についての工夫は個別には行っているが、全体としての取り組みは実施できておらず、受け身的活動を超えられていないという面も否めない。
2001年度答申で「水俣病を伝える」活動は、相思社の重要な柱と規定されている。水俣で起きた水俣病を多角的に捉えて、内外に発信していくことは 1990年以降積極的に取り組まれてきた。特に近年は、従来は政治的・医学的・社会学的な切り口から捉えられていた水俣病を、「暮らしの中に水俣病があっ た」として人間の生きている現場たる風土と暮らしの中で捉えることによって、地域社会と水俣病・コミュニティーと水俣病患者をもやい創りをキーワードとし て調べ・考えてきた。
考証館については一時は閉館の話さえあったが、考証館は水俣の入り口として、また相思社の窓口として重要であるとの確認されたことにともない、2003 年度からスタッフが考証館当番を担うように変更した。そのことにより、来館者との会話の時間が大幅に増加し、「水俣病を伝える」ことにも大きく寄与してい る。
また下半期には考証館について職員の意見交換会を行った。大きなものから小さなものまで含めて様々な課題を確認するとともに、展示の改訂方針など長年の懸案に一つの回答を得ることができた。小さな課題、すぐ実施できる侍講に関してはすでに実行している。

(3) 地域との主体的な関係の構築
寄ろ会と共催で4区あるもの探しを進めている。この中で患者から新労の人まで新たな出会いもあり、「患者とのつきあい」なども含めたすべての活動は有機 的につながっている。夏に大きな人的被害のあった豪雨災害では、地域づくりの観点から相思社独自に義援金を募る活動を行った。また、ごみ減量女性連絡会議 などに加えて、市役所環境ISO市民監査へも新たに参加し、地域での重要なネットワークとなっているが、これらは相思社の主体的活動とは言えない。
03年度は水俣において、牛乳パックの再利用を考える全国大会in水俣、環境社会学会、全国グリーン・ツーリズムネットワーク熊本大会などの大きな催し が開催され、相思社もそれぞれに関わった。水俣以外のネットワークについても、これまで参加していなかった天草環境会議や人権資料・展示ネットワーク総会 へ参加し、関係性を広げていくことを目指した。

(4)アドバイザー委員会
アドバイザー委員会では「水俣地域への発信」が強調された。それは相思社活動と地域社会との接点を、どこに見つけ出すのかということであった。闘争や運 動の時代には、相思社は患者の利害に従って行動していれば存在意義は確認できた。しかし、水俣病事件が直接当事者の利害ではなく、社会的な意味を求められ るようになった。水俣病が起きた現場ではそれは言葉で語られるだけでは十分ではなく、相思社が水俣病患者が生きるどんな地域社会を考えているのが求められ ている。
水俣病を伝える媒体は、考証館があり、多様化した水俣病案内があり、患者とのつきあいからの聞き取り集があるが、まだまだ戦術的なステージにとどまって戦略的ステージを提示できていないことが課題であろう。

【支援事業】
(1)物販・生産
相思社の物販は単なる収益を目的とした活動ではなく、水俣病を伝える大事な媒体であるとの認識はあるが、実際に物を販売する段階となると片手間仕事と なってしまっている。これは担当者が物販ばかりでなく、多くの異なった仕事を担当していることに起因している。つまり、その時その時の物販の優先順位が低 いことを表している。
この現実は認識を新たにすることでは解決できない。物販の評価基準を、売り上げ-粗利ばかりで評価するのではなく、活動を通じてごんずい購読者拡大・維持会員獲得等々の相思社の主流活動と結びついた評価軸を設定する必要があるだろう。

【総務部】
庶務、会計、営繕などの活動を通じて相思社活動のスムーズな運営を行うことが総務全体の目的である。過去の相思社の例を見てもNGOにおいては往々にし てこういった部門に弱点が見られる。相思社としては今までの反省から改善すべきは改善するように努力を積み重ねてきた。NGOとしてはかなりのレベルに達 していると自負はしているが、まだまだ不十分な部分も見られる。
細かいことの集積ではあるが、今後も日常的に努力を積み重ねて、よりスムーズな運営に寄与したい。

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