2007年度 活動報告

2008年5月25日・理事会

〈はじめに〉
2007年度はスタッフ5名、月極給与パート2名、時給パート3名の10名体制だった。保健手帳申請手続き業務と水俣病関連写真整理業務、それに産廃関係の仕事もあり、スタッフはオーバーワークの状態が続いた。
そのような状況の中においても今年度はチーム制を拡大し、機関誌編集部・物販プロジェクトに加えて、水俣病を伝える、患者、地域づくりの各チームを設置し定期的に会合を開き、多くの課題を確認すると同時に、できうることから対応を行っている。スタッフ不足の中では解決できなかった課題も少なくはないが、解決への方向性を共有できたことは大きな成果であった。
例えば、機関誌(ごんずい)編集にあたっては、毎号企画段階において2回の編集会議を開くようにしている。重要な課題を取り扱うときには随時臨時スタッフ会議を開催し、全スタッフで検討することもまれではない。
スタッフ制度を始めたがきっかけは、「担当者の責任だから私は知らない」という一種の集団無責任体制から脱却するためであった。今では自分の担当外の職務に対しても報告を求めたり、意見を述べたりすることは当たり前のことになっている。これはここの職員がスタッフとしての自覚を持ち、自己の能力が上昇してきたからである。チーム制はこうしたスタッフの自立した能力を前提としている。もし、スタッフの自立心か欠けたり、能力が不足したりした場合、チーム制は再び集団無責任体制に陥る危険性をはらんでいる。
スタッフが5名しかいない状況は危機的ではあるが、スタッフ制、チーム制がそれなりに機能しているのは個々のスタッフが日常的に努力し、研鑽を積んでいる結果であろう。
水俣は産廃問題、未救済患者問題という大きな課題を抱えている。相思社は小さな組織ではあるが、この二つの課題解決にとって地域にはなくてはならない組織として認識されつつある。2001年答申以来相思社は、患者とのつきあい、水俣病を伝える、主体的な地域への関わり(水俣病の経験を活かした地域づくり)という三つの柱を立てて努力を重ねてきた。相思社の存在が一昔前とは異なる意味合いにおいて地域や患者に評価されるようになったのはそのような努力が認められたからであろう。
財政面で見ても予算比では大幅なマイナスとなってはいるが、今年度も事業活動収支においては黒字を計上することができた。一昔前までは事業収支においても赤字を計上していたことを思えば、今のようなスタッフ不足で思うような活動ができない状況の中では高い評価が与えられるのではないだろうか。

(個々の課題への対応)
(1)抜本的な財政改革=財政基盤の確立
昨年度、「物販プロジェクト」を立ち上げ中長期の財政改革にむけて一歩を踏み出した。まだ目に見えるような大きな成果は上げられていないが、新しい方向性への模索はいくつも開始されており、将来に向けて着実に足元を固めつつある。

(2)旧生活学校・湯の児台地の活用
中長期的には大きな課題ではあるが、緊急性がないこともあり現時点では課題は先送りとなっている。
なお、西回り自動車道の用地計画の中に旧生活学校敷地の三分の一が含まれている。現在は計画・測量段階であり確定的なことは言えないが、場合によっては旧生活学校敷地活用に重大な影響があるものと思われる。

(3)評議員会設置・定款(寄付行為)改訂
「公益法人制度改革」の実態が徐々に明らかになりつつある。2008年12月には関連法令が施行される予定であり、施行されれば5年以内に新制度における公益財団法人の認可を受けなければならない。そのためには理事会と同等の権限を持つ評議委員会を設置しておかなければならない。2007年12月に事前説明会があり、相思社も参加したがまだ詳細内容が決まっていないことが判明した程度のものであった。
とはいえ早めの対応をしていくに越したことはなく、2009年度中に認可申請できる体制を整えたい。2008年度は休止していた作業部会を再開したい。

(4)未救済患者問題への対応
与党水俣病プロジェクトチームの第二の政治決着に向けての動きはしばし頓挫している。これは各患者団体の思惑に大きな開きのあること、政治も行政も一致した方向性が見いだせないという状況にあることが反映していると思われる。
与党PT案にはいくつもの問題点がある。最大の問題点は「ごんずい」においても強く訴えたことだが、申請窓口の閉鎖を謳っていることである。保健手帳や認定申請が続いている状況の中で申請窓口を閉鎖することは被害者を切り捨てることである。水俣病に対する偏見・差別が根強い中でまだ申請をためらっている人も多い。情報不足から申請のすべを知らない人も多い。このような被害者を切り捨てたならば5年後、10年後に再び補償問題が再熱することは必至であり、愚策といえよう。
相思社は保健手帳申請の手伝いをしながら毎回3時間に及ぶ説明会を根気よく開催している。これは単に保健手帳を取得すればよいというのではなく、水俣病について、あるいは水俣病を取り巻く状況を正確に伝えることにより、水俣病に対する偏見・差別の解消を目指しているからである。そのために申請者からのアンケートも取り始めた。アンケートからも情報不足、偏見・差別が強いことが浮き彫りになってきた。
申請者の数はピーク時(2006年夏頃)に比べると半数近くにまで減少しているが、今まで申請者の少なかった地域(水俣市内、漁村周辺部、出水・長島地区)からの申請者が増加していることからも徐々に情報が伝達されていること、偏見・差別が薄れていっていることが伺える。また、口コミによる情報伝達が、親戚・友人といった個人的なつながり(線)から近所・職場といった地域的なつながり(面)に広がりつつあることも大きな成果だろう。
こういった形で相思社の活動は成果を上げつつある中で申請窓口を閉鎖することは許されないだろう。
水俣病の恒久対策、抜本対策のためには水俣病特別法が必要であろう。2008年2月、民主党国会議員が水俣を訪れ、患者団体に対して水俣病特別法案を提出することを伝えるとともに意見聴取を行った。現時点では特別法の立法化は難しいとは思われるが、相思社・水俣病患者連合が訴え続けてきた特別法が少しずつではあるが現実味を帯びたものとなってきている。

(5)水俣産廃問題
IWD東亜が環境アセス準備書を提出し説明会を開催した。説明会は紛糾したものの処分場建設へ向けての手続きは着実に進められている。反対派住民はターゲットをIWDから熊本県に移しつつある。対県交渉や公聴会によって「水俣病を抱えた水俣」の力が見られたことは大きな成果であった。産廃問題は長期戦にならざるを得ないだろうが、水俣病の経験が今後も力になっていくことは間違いないだろう。
水俣病への偏見・差別が根強い中で相思社が表に出ることは運動にマイナスになるとの配慮から常に裏方に徹している。相思社においては毎日のミーティングで産廃が話題にならないことがまれなほど全スタッフが産廃問題に取り組んでいる。討議の結果は担当者を通じて行政、あるいはスタッフが係わっている組織に伝えられている。
その成果はIWD準備書に対する意見書、熊本県交渉、公聴会などに現れている。また、産廃処分場阻止の切り札となるであろうクマタカ調査の人々に対しては無料で宿泊所を提供している。このような活動により今や相思社は水俣産廃処分場建設反対運動にとってなくてはならない組織であると地域に認識されつつある。

(6)中長期的展望の中でのスタッフ採用と個々のスタッフの能力の向上
スタッフ不足は解消されておらず余力のない状態が続いている。しかし、毎日のミーティング、月々のスタッフ会議は欠かさず実施し続けている。日々のミーティングは情報の共有化だけではなく、ベテランスタッフの経験を若いスタッフに伝える場としても機能している。その結果は個々のスタッフの能力向上に結びついている。

(7)水俣市立資料館の指定管理者制度適用に向けての検討
昨年度、理事会及びアドバイザー委員会で検討した結果、中長期課題として時間をかけて検討することが決まった。緊急課題ではなくなったこともあり今年度は手つかずであった。

(各チームの総括報告)
〈患者チーム〉 弘津/川部/大滝
前年度に引きつづき未救済患者問題、特に新保健手帳の説明会(申請のお手伝い)に多くの時間がとられた。そのためもあり患者事務局の仕事や聞き取り調査が手薄になってしまった。他方、地域交流会には産廃関係者が新たに参加するなど広がりも見られた。

〈伝えるチーム〉 川部/高嶋/大滝
ほぼ毎月会合を開き、話し合いと作業を行った。考証館展示、語り部、案内、伝えるということなどについて課題を共有化し、考証館販売コーナーの改善、資料室下倉庫の整理、相思社・考証館の案内板作成などの作業を実施した。
会合を重ねる中で課題が明確になってきた。来年度以降、明らかになった課題に一つひとつ取り組んでいきたい。

〈機関誌編集〉 遠藤/川部/弘津/高嶋/(校正:芳田)
2007年度は「ごんずい100号」を特別号としたために発行は5号となった。「ごんずい」は相思社の「水俣病を伝える」活動の中心の一つであり、大きな課題に取り組む場合には編集委員だけではなく臨時スタッフ会議を開催するなど問題の共有化に心がけている。
しかし、発行が遅れること、講読者が増えないこと、読みづらい・わかりにくいなどの意見があることなどの課題もあり、今後はこういった課題の解消にも努めていきたい。
なお、2007年度から会費継続納入者の氏名を記載、「読者の声」コーナーの新設、「ごんずい」専用封筒作成、ヤマトメール便の活用など読者サービスや経費削減への新しい試みを実施した。

〈資料チーム〉 弘津/高嶋/大滝/奥村/入口/有村
一般資料の整理・データベース化、水俣病関連年表データベース作成、写真資料整理とデータベース化が主な事業であった。一般資料については入力件数としては計画通りだったが、古い資料の整理については予定の半分も進まなかった。
年表については件数としてはほぼ計画通りに進んだが、内容の再チェック・見直し・書き直し作業については計画通りに進んでいない部分もあり、最終年度(2008年度)に多くの作業を積み残した。
写真資料整理は地球環境基金助成事業として最終年度だった。約6万件のデータベースが完成し、その多くがネット上で検索・閲覧できるようになっている。なお、一般資料や新聞記事見出もネット上で検索できるようになり、今後徐々に利用者が増えると思われる。

〈国際セクション〉 坂西/遠藤/芳田
今年度新設したセクションで多くの時間を割いたわけではないが、その割には多くの成果を上げることができた。(1)考証館に英文パネルを設置した。(2)外国人用、特にJICA研修生用への地元学研修の見直し、再構築を行った。(3)ビルマでの予防原則への試みとしての水質調査を実施した。
なお、2008年度は中国プロジェクトとして発展解消する予定であったが、助成を得ることができなかったので国際セクションを継続することになった。

〈物販プロジェクトチーム〉 坂西/遠藤/川部/芳田
昨年度は相思社においての初めてチーム制であり、試行錯誤の連続だったが、2年目となり活動は定着・安定してきた。物販機関誌「のさり」の発行は軌道に乗り、ある程度の質を保ちつつ定期的に発行できるようになった。また「大きな柱を目指さず、小さな柱を多く立てる」ことを方針とし、玉ねぎ企画、海産物企画、新たな柑橘販売などにも取り組みを始めた。
現時点においては「のさり」発行の効果は目に見えていないが、新しいツールを得たことで今後の新たな活動につなげていきたい。
「担当制」から「チーム」への移行によって、事業の相互チェックができるようになり、売上の減少に対する迅速な対応ができるようになった。また、定期的会合の開催により、新規物販企画の検討や各担当の仕事の質の向上につながっている。しかし、会合の増加は意思疎通を図るには有意義であることは間違いないが、結果がついてこなければ時間のロスとなる。会合のための会合ではなく、常に結果も求めていきたい。

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