教員免許更新講習について

2016年7月29日(金)~7月31日(日)に星槎大学と協同して教員免許更新講習を水俣市で開催することなりました。現在参加者を募集しています。

対象は、全教科、全課程の教員で、栄養教諭や養護教諭、高校、中学、小学校、幼稚園を含みます。免許は持っているけれど現在現場にはいないという方も大丈夫です。
※1962年、1972年、1982年生まれの方が対象です。年齢にすると今年54歳、44歳、34歳の皆さんです。

以下、昨年度の講習後に講師・主催者である鬼頭秀一先生より寄稿していただきました。

教員免許更新制度は第一次安倍政権下で教育再生会議が提起して、2007年に法制化し2009年から実施されている。教員に対する負担が大きいことなどから問題も多く、見直しが叫ばれながら、さらに細かい内容の規定が付け加えられて定着してしまい、この制度のために、心ある教員の方が更新時期を迎えて辞められるケースも少なくない。私自身もこの制度自体には反対である。とはいえ、定着しつつあるこの制度に対して、何とか逆手を取って対抗したい、理不尽な制度の中で辞めていかれる可能性のある教員の方に対して、政権が考えることとは逆の形で意味ある講習を提供していけないかと思いながらこの教員免許更新講習を企画した。

私が1年半前に赴任した星槎大学は、「共生」を理念として掲げている大学であるが、この教員免許更新講習を「通信教育」を得意としていることから、全国的に展開してきている。今までも、特に「選択」の領域でユニークな講習を展開してきた。そのことを背景にして、赴任当初から水俣でのフィールドワーク(現地踏査と患者さんなど関係者の方の語りを聞いて交流すること)を主体とした講習の計画を練り、相思社の遠藤さんや永野さんに相談しつつ今年の7月になんとか実現した。このことを実現するためには、永野さんと文字通り、二人三脚で、事務的なことや現地対応は永野さんに全面的にお任せし、大学側もこの種の講習は初めてで、私も事務的な対応が不慣れのまま、受講者の方にはいろいろとご迷惑をおかけしたとは思うがなんとかやり遂げた。

この教員免許更新講習は「水俣の地から考える環境学習と持続可能な開発のための教育(ESD)」と題している。対象は、全教科、全課程の教員で、栄養教諭や養護教諭も含まれているし、高校、中学、小学校、幼稚園を含んでいる。ESDは環境教育とは違って、全教科にわたった幅広い学びの教科である。三日間の日程で選択18単位を取得できるものだが、これに加えて、通信での必修12単位を履修すると、事前に『共生の学び』という星槎大学で作っている教員免許更新制度のテキストを読んで事前にレポートを提出していただき、水俣での三日間の講習の時間外に最終試験を受けていただくことで必修の単位も取得でき、水俣の三日間で、免許更新に必要なすべての単位(30単位)を取ることができるというちょっとお得感もある。文科省の方針が変わって、来年度から「選択必修」という枠が導入されたのでちょっと工夫は必要だが、来年度は何とか同じような形でできないか模索している。

この免許更新講習は、文科省の管轄下にあるので、その制約の中でやらなければならないが、それでもいくらでもできることはある。講習の修了試験を、通常の試験ではなく、授業案(指導案)の作成に設定して、これでマークシートによる筆記試験から解放した。参加する受講者は様々な課程、多様な教科であるので、それぞれの課程、教科に対応した授業案を作ってもらい、途中で発表してもらい、それを試験用紙に書いて最終試験とした。

このため、受講者は、全体の講習を二つの異なる流れを関連付けながら行う形にした。一つの流れはフィールドワーク(考証館と茂道、坪段、埋め立て地、百間口等)や患者さんなど関係者の方々(吉永理己子さん、池崎翔子さん、相思社の葛西さんと永野さん)のお話を伺って水俣の問題に対して五感を介して認識を深めるということであり、もう一つの流れは、水俣に限らず今回の講習に触発され、その成果を入れた授業案(指導案)を作成するということである。いずれの流れも、参加者を3名程度のグループに分け、毎回メンバーを交換して回していくような形で行い、グループワークを行い、それを全体でシェア、そして教員の私や永野さんの方で総括してもらうという形で行った。

実際やってみて、グループワークの成果は、想像以上に素晴らしいものになった。水俣の問題に関しても最初から本質的な問題に迫るような議論があり、また、授業案の作成の方も、最初の漠然とした種からそれを育て成長させながら最後に花を咲かせるまで、かなり興味深い進化(深化)を見ることができた。二つの流れが融合しつつ、さらに、初日はオプションとして講習終了後に、受講者の渡部先生主催の福島の相馬高校放送部の作品の上映があり、特に「伝える」ということについて更なる学びがあった。二日目の夜は懇親会で、他の患者さん(荒木洋子さん)や支援者、関係者のみなさん(高倉草児さん、沢畑さん、水俣・芦北公害研究サークルの先生方等)との交流があり、それもとても意味が深かった。そして、三日目の発表会の時には、緒方正実さんや吉永理己子さんをはじめとして、10名弱の現地の方々をお呼びして発表内容に関して質疑応答やコメントなどがあり、いろいろとお話しを伺った内容を踏まえて現地にお返しができただけでなく、その意見交換の中でいろんな学びがあった。

授業案は主題もテーマも多彩なものであったが、一つの大きな底流として流れているものとして、当事者性ということがあったと思う。高度成長や地域経済のために排除され犠牲になった人たちに寄り添い、連帯し、支援が可能になるような感覚を伝えていくことがいかに可能であるのか、私流のいい方では「地に這う視点」で問題を把握し、「被害」に寄り添うことをどう可能にしていくのかということかあったと思う。受講生のみなさんの、問題に対する真摯な取り組み、何とか伝えたい、表現したいという思いが深く感じられた。緒方さんや吉永さんも、今後の語り部の活動に対する大いなる刺激があったという感想をいただいた。

多くの教員の方が、時間とお金を使ってやらなければならないことに対して、私たち大学の人間としては、その制度を逆手にとって教員の方々にとって真の意味で有意義な講習を企画して提供することだと思っている。水俣での教員免許更新講習というのは、それに対する一つの回答である。そして、今回多くの成果が得られて、次年度以後も続けていける確実な実感を得て本当によかったと思う。

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