永野の韓国訪問記【浦項(ポハン)編】

2019年11月2日(土)、韓国随一の工業地帯、浦項(ポハン)へ行きました。

浦項では2016年の6月頃、東海岸の都市を流れる兄山江(ヒョンサンガン)という川の河口付近で採れるシジミから韓国の基準値を超える水銀が検出されました。その後、付近の環境からも基準値を超える水銀が検出されています。韓国国内では大きなニュースになって、特に水産が盛んな地元浦項の市民は大きな不安を抱えているにも関わらず、浦項市など行政の対応は後手後手で、水銀発生源も突き止められていない、というのが当時の状況でした。MBCテレビの浦項支局では、市役所の背中を押す意味も込め積極的にこの問題を取り上げていましたが、かつて水銀汚染による大きな過ちを経験した水俣を取材するため、2017年6月に、水俣へやってきたのでした。「水俣病を繰り返さない社会をつくる」活動をしている相思社としては、状況を確認したうえで喜んで引き受けました。

当時の報告(2017年6月25日)
「兄山江の水銀汚染、水俣から学ぶ」取材協力

ここから、私の今回の報告です。11月2日(土)、以前に水俣を訪れたMBCテレビのディレクターに案内をいただき、キム・ユンスクさんが通訳をしてくださいました。

打ち合わせ会場に向かう途中、ディレクターが右手を指差しました。川が流れ、その先にドーム型の施設がありました。二年前は「建設予定」だった水上レジャー施設の一部ができあがっていました。

兄山江に作られているウォーターフロント|水俣病センター相思社

予定にはなかったにも関わらず、ディレクターの配慮により、市議会の議員団にお会いできました。議員らにとっても水銀汚染は気がかりで、「来年の5月に浚渫工事が始まるので、専門家に来てもらって意見をもらいたい。」という依頼がありました。浦項市議会では、市に対し漁獲禁止条例を作るよう強力に要求したそうです。しかし、条例はできたものの、市で禁止する動きはなく、処罰もないため実効性はない。市が取り締まりをすれば、なぜ取り締まるかを詳しく説明する責任があるが、市はそれができず、市民は「市役所が説明しないから大したことはない、マスコミがあおっているだけ」と思いはじめている。住民は危機意識を持てなくなり、漁を続けているということでした。

浦項POSCO関連の工場群|水俣病センター相思社

浦項POSCO工場群|水俣病センター相思社

その後、現場に連れて行っていただき、およそ二万坪の敷地の「POSCO」を見ました。周辺には多くの工場が立ち並び、関連会社は大きいものだけで300~400あると聞きました。どの工場に行っても強烈な臭いで、臭いは工場ごとに違いました。環境省は、水銀に関する資料を持っているが、どこの企業が使っているかを明らかにしていません。検察が企業の排水を調査したのは、発見されてから時間が経ってからのことで、企業は対応済みだったようで、どの企業が発生源か不明とのことでした。警察も検察も市も市議会の多数派も浦項工業大学もPOSCOに気を遣って、何もいえないとのことでした。そもそも浦項工業大学は「POSCO」が作った大学で、会社を不利にすることはできないという流れがあるようです。また、韓国の学者は、民間レベルの協議のときは「問題がある」というが、自分ごととして発信する人はいない、学者はみな、企業に気を遣っていると聞きました。それは、日本でも同じことでしょう。

浦項POSCOの社員住宅|水俣病センター相思社

「POSCO」の工場のそばで、釣り人たちが魚をとっているのが、印象的でした。帰り道、POSCOの工場から500mのところに大きな町が見えましたが、そこから離れたところにある「POSCO」の社宅を通ってもらいました。工場地帯よりは空気のきれいなところにあるビルを見ながら、私の生まれた町を、思いました。わたしたちは、「水俣病を二度と繰り返さない社会をつくる」ことを目的に活動を続けています。水俣と相似形の、現在進行中の水銀汚染に、目を反らしたくなりながら、一方で、見て考えて、伝えたい、と、写真を撮り、メモを取りました。

ディレクターは、落ち込む私を励まそうと、慶州(キョンジュ)の美しい町並みを見せてくれ、遺産を見に回ってくれました。そして、韓国の有機野菜で作られた家庭料理を食べさせてくれました。優しい気遣いに、私の心も少し柔らかくなりました。浦項でお別れをせずに、この時間が持てたことは、本当にありがたかった。これからも、韓国との交流を続けながら、相思社が持っているネットワークを活かして、浦項と水俣をつなぎます。それが、いまだに失敗を続けている水俣の、果たすべき役割と思います。次は研究者や医師に、行ってもらおうと思います。水銀汚染によって悲しむであろう人たちのことを、いま苦しんでいる人たちの顔を浮かべながら、考えています。

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