環境庁長官 大木浩 殿
今後の水俣病対策についての申し入れ
本年一二月に「地球温暖化防止京都会議」が開催されるとうかがっております。地球温暖化が人類のみならず、地球上のあらゆる生命にとってゆゆしき問題であり、かつ避けては通れない問題であることが声高に叫ばれ始めて久しくなります。環境問題が一企業・一地域の問題ではなく、人類あるいは地球上の全生命にとって、今や最大の課題になっていると言っても過言ではないでしょう。
私たちも水俣病という公害事件の被害者として、環境問題には人一倍関心を持ち続けています。私たち水俣病患者は自らの病と苦しみの体験から、「水俣病は人の健康や命を損なうだけではなく、すべての生命と環境に取り返しのつかない損害を与え、また、差別や偏見を生みだし、日常生活さえ破壊する」ことを身をもって知っています。そして、「公害で苦しむのは私たちだけでたくさんだ」、「二度と水俣病のような悲劇を繰り返してはならない」、ことを様々な形で訴えてもいます。
水俣病は経済優先の社会が生み出した人類の負の遺産といえます。このことは地球温暖化などの環境問題と根は同じであると思います。ですから、水俣病の経験を人類の教訓とし、あるべき道を見つけ出し、それを日本中に世界中に伝えることができれば、わたしたちの被った被害を意味あるものに変えていくことが可能なのだと考えます。極言するならば、水俣病事件の教訓が本当に生かされるのであれば、地球温暖化など人類が直面している大問題でさえ、解決の道が見いだしうるとさえ思っています。
私たちは平成七年の政府解決策は、私たちの要求をはるかに下回るものでしたが、私たちはこの解決策を受け入れました。それは、この解決策に私たち被害者の救済のみならず、チッソ支援、地域の再生・振興、そして損なわれた地域社会の絆の修復(=もやい直し)などの施策が盛り込まれていたことが大きな理由でした。
貴庁におかれては、平成七年の政府解決策にそって、被害者救済をはじめとする施策を忠実に実行されており、その点においては率直に評価しています。しかしながら、一方では被害者が今も健康や生活に対する不安を抱えているというのも事実です。また、他の施策についても緒についたばかりで今後さらに精力的に押し進める必要があるものと考えています。
私たちも水俣病の被害者として政府解決策に盛られた精神を活かすため、積極的に協力しており、今後も具体的な提言も含めて取り組んでいきたいと思っています。そのためにはまず、被害者の医療上の不安を取り除き、生活を保障していく必要があるものと考えています。
以上の点を踏まえ、本年四月二三日に石井道子前環境庁長官に対し五項目について申し入れを行いました。石井前長官は「要望を心に留めて実現のために努力したい。医療事業については与党三党合意、閣議決定に基づいて進めているので、関係自治体とも相談して進めたい」旨の回答をされました。その後、貴庁におかれては医療事業の継続、チッソ支援等において努力されており、成果もあったと思っております。しかしながら、今も私たちの会員に限らず多くの被害者が不安を持ち続けていることも事実です。またその後、私たち三団体が会合を重ねる中で新たな課題も出てきました。
つきましては、本日、私たち三団体は本年四月二三日の申し入れを再度確認すると同時に、新たな課題を付け加えて申し入れるものです。
一、 水俣病総合対策医療事業の継続に関して
今後も少なくとも現在の給付水準を維持し、一人の対象者も切り捨てることなく、継続していただきたい。
二、 右事業、医療手帳交付者への事業内容の拡充に関して
現行制度では医療設備の不備な離島(熊本県天草郡御所浦町、鹿児島県出水郡東町獅子島等)の居住者にとって、充分な治療を保証することになっていません。医療施設等の拡充、あるいは療養手当の見直し等を考慮され、離島居住者の治療を保証していただきたい。
ハリ・灸治療については、現行制度では補助額・回数とも充分なものとは言えず、治療費の捻出に苦慮し、我慢を強いられているものが多数います。また、マッサージが補助の対象とはなっておらず、被害者の実状に見合ったものとなっていない部分もあります。
つきましては、
@ハリ・灸治療の補助の増額と回数制限の緩和をしていただきたい。
Aマッサージ治療も補助の対象としていただきたい。
三、 右事業、保健手帳交付者への事業内容の拡充に関して
私たちの会員の中からでさえ、「保健手帳は回数も額も制限が大きすぎるし、使いづらい。医療手帳のように使いやすいものにして欲しい。安心して治療が受けられるように、医療費は全額補助にして欲しい」といった声が聞かれます。私たちの会員の中の保健手帳交付者を見ても、なぜ医療手帳の該当者にならなかったのか不思議なくらいの人たちがいます。今さら判定検討会の結果をとやかく言うつもりはありませんが、せめて充分な治療は保証していただきたいと思います。
つきましては、保健手帳交付者にも医療手帳交付者と同じように、医療費の自己負担分を全額補助していただき、医療手帳と同様に使えるものにしていただきたい。
四、 水俣病の教訓化、並びに教訓を伝える事業について
昨年七月に貴庁国立水俣病研究センターが改組され、国立水俣病総合研究センターとなりました。それをきっかけに同センターを柱の一つとし、熊本県や水俣市、それに私たち患者団体を含む民間も一体となり、水俣病の研究、資料収集・整理、水俣病の教訓を伝える事業などを行っているところです。これらの事業は水俣病の教訓化とそれを伝えるためには是非とも必要であり、今後とも今以上に力を注ぐべきだと考えます。昨年度はインドネシアで水俣病セミナーが開催され、今年度はフィリピンで開催されるとうかがっています。こういった海外でのセミナーを恒例化すると同時に国内でも同様趣旨の催しを行っていただきたい。
また、水俣病の研究者に生きた資料を提供し、もって研究者の増加を図ることも重要なことですので、その面でも更に積極的に取り組んでいただきたい。
五、 不知火海沿岸地域(出水市及び出水郡、御所浦町などの離島を含む)の再生・振興についても特段のご配慮をいただきたい。
六、 チッソ鰍ノ対する金融支援は、政府の政策に基づいて行われてきた経緯もあり、今後とも万全を期していただきたい。
七、 水俣病に関する諸問題について、今後とも被害者団体と継続して協議の場を設け、真摯に被害者の声に耳を傾け、実現に取り組んでいただきたい。
以上
一九九七年一一月二七日
水俣病患者平和会 会長 石田勝
水俣病患者連合 会長 佐々木清登
水俣病被害者の会全国連絡会 代表委員 森葭雄
同上 幹事長 橋口三郎