二〇〇二年七月一七日
水俣病患者平和会
会 長 石田 勝
水俣病患者連合 会 長 佐々木清登
水俣病被害者の会全国連絡会 代表委員 森 葭雄
幹事長 橋口三郎
はじめに
昨年、二一世紀の幕開けとともに環境省が発足しましたが、これは二一世紀が環境の世紀と呼ばれているように、環境行政が日本国のみならず、世界のすべての人びとにとって最重要な課題であることの証左でもあると思います。環境庁の発足から三一年が過ぎました。この間に日本の環境行政は大きく変化していきました。しかし、環境庁の最初の仕事が水俣病の行政不服審査における棄却取消であり、環境庁裁決であったことを忘れてはならないと思います。
一九九五年の政府解決策により、未認定患者の補償問題に一応の区切りがつけられましたが、私たちはこの解決策が万全のものとして受け入れたのではありません。生身の人間として、病に長く苦しみ続け、戦い続けてきた結果としては、あまりにも不備なものでした。しかいながら、患者の名誉回復も含めて、地域で生きていくためには、それ以降の継続的な取り組みを期待して、苦渋の選択をしたのでした。
「水俣病問題はもう終わったのではないのですか」とよく聞かれます。多くの人びとはそのように感じているのだと思います。しかしながら、私たちの病は年を重ねるとともにより厳しいものとなっています。また、周囲の偏見や差別も以前に比べれば多少は緩和されたとはいえ、まだまだ解消される兆しは見えません。
環境省におかれては、私たちの苦しみを理解していただき、次に掲げる要望を是非とも実現して頂くよう、お願いいたします。
なお、これらの要望は私たちだけの要望ではなく、すべての水俣病患者、そして地域住民の願いであることもご理解頂きたく思います。
要 望 事 項
一、水俣病総合対策医療事業の継続に関して
本年三月より、医療手帳の更新期間が五年となり、また、基本的に医師の療養証明が不要となるなど、更新手続きが簡略化されました。このことによって、患者の負担は大きく軽減され、不安も小さくなりました。今回の制度改善につきましては環境省のご努力を大きく評価するとともに、感謝しております。
しかしながら、医療事業の継続、医療手帳の終身保証は患者にとって最重要、不可欠の課題であることに変わりなく、今もってそのことに不安を持ち続けている状況は続いております。
医療事業の継続が法律的にも保証されるよう、今後ともぜひご尽力をお願いします。
また、医療制度が「改革」されることによって、医療補償の水準が下げられるのではないかとの不安もあります。今後、制度がどのように「改革」されようとも、現行の医療保障の水準を決して下げないことを言明して頂きたいと思います。
二、水俣病総合対策医療事業、医療手帳交付者への事業内容の拡充・改善に関して
御所浦島、獅子島などの離島における医療補償につきましては、かねてより要望してきましたが、いまだ十分な措置がとられていません。離島に在住する患者の不安と経済的負担過多は解消されておりません。
これら離島に医療施設を設置して頂くことを強く望みます。また、医療設備が整うまでの間、離島荷在住する患者に対して何らかの経済的補助をして頂くようお願いいたします。
ハリ・灸治療につきましても、要望を続けておりますが、現行制度では補助額・回数とも充分なものとは言えません。ハリ・灸治療の補助の増額と回数制限の緩和、並びにマッサージ治療も補助の対象としていただくようにお願いいたします。
昨年、医師の指示があれば、医療手帳を使ってハリ・灸・マッサージ治療を受けることができるとの環境省の説明と熊本県に問い合わせた実態がかけ離れていることについて調査頂くとの回答をいただきましたが、今もってその調査の結果をうかがっておりません。
調査結果を明らかにして頂くとともに、今後の対策を明確にして頂きたいと思います。
医療手帳対象者も認定患者も高齢化し、病に苦しみ、生命と健康、そして経済的にも不安な状態におかれていることには変わりはありません。同じように有機水銀の影響による苦しみの中にありながら、その補償内容には大きな隔たりがあります。医療手帳対象者も安心して暮らせるように補償内容を拡充して頂きますよう、お願いいたします。
三、水俣病総合対策医療事業、保健手帳交付者への事業内容の拡充に関して
昨年の貴省から頂いた調査結果からも、保健手帳を返上し認定申請をする患者が相当数に上ること、保健手帳の使用率の低いことが再確認されました。保健手帳を返上して認定申請をした患者が認定されたことからも、保健手帳該当者も水俣病に苦しんでいる実情を推し量ることができると思います。
保健手帳対象者におきましても、医療費の自己負担分の全額保証をするなど内容の拡充と、手帳の使い勝手の改善を強く望みます。
なお、昨年鹿児島県と熊本県との制度の差違について調査して頂くとの回答をいただきましたが、調査結果についての報告をいただいておりません。調査結果の報告をいただくとともに、善後策を示して頂きたく思います。
四、水俣病の教訓化、並びに教訓を伝える事業について
昨年六月に水俣病情報センターが開館し、一〇月には水俣において水銀国際会議が開催されました。今年六月には「水俣病関連資料整備検討会」が開催され、「水俣病関連資料総合調査事業」が四年計画で開始されました。
これらの事業は、水俣病の教訓化、あるいは教訓を伝えるものとして高く評価されるべきでしょう。しかしながら、資料整備検討会でも多くの委員から意見が発せられましたように、公文書公開を円滑に進めるための水俣病関連公文書資料収集並びにデータベース構築など急がねばならない事業も多く、人員不足、予算不足により事業の停滞が生じれば、事業の内容そのものにも悪影響が生じます。地道にかつ着実に事業が進展できるようなご配慮をお願いしたいと思います。
水俣病事件の教訓化と情報発信は単に学問のためだけでなく、地域や国内における水俣病と水俣病患者に対する偏見、差別の解消にもつながることであり、力を注がれるようお願いいたします。
平成八年度から始められた「水俣病セミナー」も定着し、徐々に成果を上げているものと評価しています。こういった事業は継続することが大きな意味を持つものであり、今後ともより多くの人びとに水俣病の教訓を伝えていくために事業を継続して頂きたいと思います。
また、水俣病の風化が取り沙汰されており、水俣病患者として悲しく感じています。水俣病事件を風化させないためにも国内におきましても水俣病セミナーを開催されますよう、お願いいたします。
また、今年八月には南アフリカ、ヨハネスブルグにおいて「持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)」が開催されます。各国首脳のみならず、環境関係のNGOも多数参加するとうかがっております。こういった場において水俣病の教訓を発することは重要なことであろうと思われます。水俣病セミナー同様、私たちはできる限りの協力を惜しまないつもりですので、貴省におかれても最大限の努力をされるようにお願いいたします。
今年、熊本県は環境教育の一環として水俣現地体験学習に力を注ぐようになりました。しかしながら、水俣病ガイド、水俣病関連地区の案内地図、案内板とも絶対的に不足しているのが現状です。私たちも協力するつもりですので、こういった現状を改善するための方策を実施して頂きたいと思います。
五、不知火海の異変調査と沿岸地域の再生・振興について
不知火海沿岸に昆布など海藻を植樹する事業などもあり、多少は海が回復しつつある兆しも見えますが、不漁であった昨年より、今年は更に不漁であるのが実情です。
昨年、不知火海において極度の汚染は見られないとのご報告をいただきましたが、実感とは解離したものでした。また、熊本県なども別途調査しているとのことでしたが、その調査結果もうかがいたいと思います。
また、球磨川など不知火海に注ぐ河川の汚染、ダム建設などと不知火海の不漁との因果関係も調査して頂くようにお願いいたします。
不知火海沿岸地域(出水市及び出水郡、御所浦町などの離島を含む)は漁業の不振もあり、経済的にも厳しい状況に追い込まれています。不知火海沿岸地域の再生・振興についても特段のご配慮をお願いいたします。
六、協議の場について
水俣病に関する諸問題について、今後とも患者団体との協議の場を設けていただき、真摯に患者の声に耳を傾けていただきたいと思います。
以上