2007年11月26日
水俣病患者連合
会 長 佐々木 清登
はじめに
「水俣病患者連合」は未認定水俣病患者の組織です。現在の会員数は一〇〇〇名余りですがその八割は新保健手帳の交付者です。私たちは一九九五年の解決策に応じましたが、それは補償内容に納得したからではありません。当時、「もやい直し」を合い言葉に地域全体が水俣病に対して前向きに取り組む機運があったからです。水俣病は私たち患者の体をむしばんだだけではなく、水俣病に対する間違った認識から偏見・差別の目で見られ、誹謗・中傷が横行し、そのことによる精神的痛手は健康被害以上に重くのしかかっていました。その苦痛が和らげられることを期待したからでした。
「もやい直し」の運動は一定の成果を上げました。多くの人びとが水俣病に理解を示すようになりました。しかし、残念ながら水俣病や水俣病患者に対する偏見・差別がなくなったわけではありません。地域の過半の人びとはまだ水俣病に対する誤った知識・偏見を持ち続けています。そんな中で二〇〇四年一〇月の関西訴訟最高裁判決を機に認定申請者の急増という事態が生じ、二〇〇五年には医療事業・保健手帳の受付けが再開され、すでに一万三千人以上の人びとが手帳の交付を受けています。これは水俣病被害の広がりが私たちの想像以上に大きいという事実を反映していると同時に、水俣病に対する偏見・差別が軽減されつつあるという事態の反映でもあるのです。このことは最近になってようやく偏見・差別が根強い患者多発地やその周辺の人々も申請するようになってきている事実からも推察されます。
重ねて申し上げますが、水俣病事件の真の解決は被害者への補償・救済で完結するものではありません。地域の人々の理解と水俣病や水俣病患者に対する偏見・差別の解消も必要なのです。そのことを肝に銘じて施策の策定、実施にあたってください。
なお、次に記す要望はすべての水俣病被害者と被害地域住民の願いでもあることを申し添えます。
要 望 事 項
水俣病被害者の補償・救済の恒久的枠組みについて
最近になってようやく水俣病被害の実態が徐々に見えるようになってきました。昭和三〇年代、四〇年代に汚染地域に生まれ、生活してきた人びとの多くが四〇代、五〇代になって初めて自覚症状を感じはじめ、六〇代、七〇代になって症状が重篤化するということです。「数年前から頭痛やシビレが始まった」、「去年くらいからシビレがきつくなった」、「それで今になって認定申請や、保健手帳申請に踏み切った」という人が非常に多いのです。
また、最近徐々に認定患者の家族や最汚染地域、あるいはその近辺の人びとが相談に訪れるようになってきました。被害の多発地は偏見・差別が強く、誹謗・中傷が渦巻いているために、以前から症状を持ちながらも水俣病から遠ざかっていた人たちがようやく、おそるおそる水俣病に向き合うようになってきたのです。
水俣病被害とはどのようなものか、被害の範囲はどの程度まで及んでいるのか等、総合的な実態調査が必要なゆえんです。
水俣病の解決のためには「全ての水俣病被害者の補償・救済」が必要です。恒久的な対策が必要なのです。もし、見切り発車したならば、そのツケは五年後、一〇年後に回ってくるでしょう。今こそ、一〇年後、二〇年後を見すえて恒久対策に取り組むべきです。
(一)全水俣病被害者救済、被害地域援助を見すえた特別立法を策定すべきです
水俣病被害者は同じ有機水銀の影響を受けながら、行政認定患者、医療手帳交付者、司法認定患者、保健手帳交付者、等々に分断され、患者同士さえ水俣病のことを話せない状況が続いています。被害者間の偏見・差別の解消のためにもすべての水俣病被害者を統一的な枠組みの中で補償・救済し、同時に被害地域を援助するための恒久的施策が必要です。そのためには水俣病特別立法を制定するしか方法はないと思います。
水俣病総合対策医療事業のうち保健手帳のみを再開している現状は偏頗なものであり、将来に禍根を残します。
(二)保健手帳の受付窓口は申請者がなくなるまで開いておくべきです
水俣病特別立法がない中で医療事業・保健手帳の受付窓口を開いておくことは当面の策として不可欠です。もし、この状況の中で窓口を閉め切ったなら地域に不公平感が募り、混乱をもたらすことは必至です。前回政治解決の不備を繰り返さないためにも申請者がなくなるまで受付窓口は開いておかなければなりません。
(三)療養手当は医療補償・救済の一部であり、保健手帳交付者全員に療養手当を支給すべきです
保健手帳交付者の中には高齢者、重症者も多く、医者にかかるにはタクシーなどを使うしかない人も多くいます。療養手当は充分な医療を受けるための費用補填であり、医療補償の一部です。必要な人が、必要なときに、必要な医療が受けられるようにするために全ての保健手帳受給者に療養手当を支給すべきです。
また、御所浦などの離島居住者にとって通院費の負担は非常に大きいものとなっています。離島手当等、離島居住者が必要な医療を受けられる対策も講じていただきたいと思います。
(四)一時金希望者への一回限りの公的検診で感覚障害を認められない場合でも保健手帳の交付は続けるべきです
一〇月三一日の環境省の説明によりますと、一時金希望者が公的検診を受けた場合、検診の結果によっては手帳を失効させるようになるかも知れないとのことでした。これは水俣病被害の実態を反映しない悪策と言えます。有機水銀による被害・症状は変動します。このことは被害者の多くに共通している事実です。また、公的検診を行う医師によって症状の取り方に大きな差異が生じるであろうことは平成七年の検診実態からも予想されることです。たった一回の検診によって一時金の対象になったりならなかったりすること自体が不公平を生ずるもとですが、既得権である保健手帳まで取り上げるというのは悪策を超えて非人道的とさえ言えるでしょう。どのようなことがあっても一旦発行した保健手帳は失効させるべきではありません。
以上