説明
ー「苦海浄土基金」から広がった患者支援の輪ー 若槻菊枝は新潟県中蒲原郡大形村で生まれた。両親は小作農民で、家は貧しく、幼い弟の子守をしながら小学校に通ったが、十分に教育を受けられる環境になかった菊枝は三年生のときに通うのをやめてしまう。その後、女工として働き出し、ある男性と出会い結婚するが、菊枝はふとしたきっかけで若くして東京に出る。世間の荒波に揉まれながら新宿に開店したバー「ノアノア」は順調に店舗を拡大していく。一方で菊枝は大好きな絵を描くことも忘れなかった。勇ましく何でも一人でやり抜いてしまう生活力を身につけ、正しいと思うことは信念を曲げない、自分に正直に忠実に生きたい、お金儲けより商売で冒険して思い切ったことをやりたい。豪傑ともいえる菊枝は純粋な童女でもあった。ノアノアという店とお客に育てられ、誰からも親しまれた菊枝ママ。そこには「郷里を懐かしみ愛し、そして何かに憑かれ、世俗にまみれ世俗とたたかい、自分だけの世界に生きていく」姿があった。そんな菊枝は、あるとき水俣病事件と出合い、水俣病患者とその家族を支援しはじめる。ノアノアに設置されたカンパ箱には多くの支援者たちの善意と希望が集まった。カンパにとどまらず、あらゆる支援を行った菊枝の潔い行動と正義感の背景には、父の影響があった。本書は、若槻菊枝の新潟での生い立ちから晩年までの波乱万丈な人生を、彼女に惚れ込んだ著者が5年にわたる取材を行ない丁寧に描いている。