新刊のお知らせ『いのちの物語 水俣 桑原史成写真集 1960~2022』

2022年10月25日、水俣病事件を1960年という時期に撮りはじめ、水俣病関係の写真家の先駆けとなった桑原史成さんが新たな写真集を出された。10月27日には考証館にも来館していただいた。その際に来館者の北九州、和歌山の子どもの村中学校の生徒さんの前で、ご自身が水俣で写真を撮り始めたときのことを話してくださった。

中央右の男性が桑原史成さん、左が写真集を編集された白木喜一郎さん。周りは子供の村のみなさんと職員の葛西と永野との一枚。初めての出会いだがとても馴染んだ空間になっている。


今回は、その写真集の編集の想いを書かせていただく。この本を編集していらっしゃる白木喜一郎さんからこの本の魅力と苦労話をたっぷりと聞かせていただいた。まず、この本の売りとしては、今まで水俣病事件を知らなかった世代にも水俣病を伝えるように考えられた写真集である、ということだ。このコンセプトが成立したのは、桑原さん一人でこの本を作ったのではなく、編集として水俣病事件の運動を支援し続けてきた白木喜一郎さんと久保田好生さんが入ったからだった。編集では何度も何度も桑原さんとやり合い、全部で1,000カットもあった写真を200カットほどまで削ぎ落とし、水俣病事件の軌跡を描き出した。
そんな若い世代に伝えるべく白木さんがこの本の魅力として掲げる2本の柱がある。それは、桑原史成の物語と胎児性患者の生命の物語である。桑原さんは誰もが注目しないなか、自分の感性で水俣病事件の重大さに気づいて撮影を行い、今では著名な写真家となった。その桑原さんの生き方が水俣病を学ぶ人達への一つの入り口となる。また、この写真集では胎児性患者の幼いときから現在の姿が収められている。胎児性患者たちの人生の背後には、生まれてくることができなかった生命がある。彼らが背負ったいのちとは、そういった重さがある。この2つのいのちの物語、写真集は、我々に水俣を見つめさせてくれる大切な視点だと感じている。

写真集の石牟礼道子の寄稿を読むと、写真という切り取った場面であっても、写真を見る人でその見え方は変わってくる。名画がそうであるように、写真もそういうものなんだろうと思わされる。それは、まさに水俣病事件の色相もそうだ。現在は、情報過多な社会を生きつつも、AIに選択肢をおすすめされるようなある意味監獄のような時代である。それは水俣病事件が起きたときから現在も何ら変わらぬ地続きの社会であるけれど、一方で古の縄文人たちが住み始めた場所に今もなお我々は居住地を構えている先祖代々の別のいのちの繋がりがある。我々は、この写真集のいのちの物語を噛み締めながら、自身のいのちの物語をどう結びつけていくか、何と断絶してしまったのかを考えることができるのではないだろうか。ぜひ下記のURLからお買い求めください。
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