「兄山江の水銀汚染、水俣から学ぶ」取材協力

5月のなかば、MBCという韓国のテレビ局の方から電話がありました。話を聞くと、昨年の6月ころ、浦項(ポハン)という東海岸の都市を流れる兄山江という川の河口付近から高濃度の水銀が検出されたとのこと。
その後、河口の魚やシジミからも韓国の基準値を超える水銀が検出されたというのです。

韓国国内では大きなニュースになっており、とくに水産が盛んな地元浦項の市民は大きな不安を抱えているというのです。にもかかわらず、浦項市など行政の対応は後手後手で、今だに水銀発生源も突き止められておらず、具体的な対応策も今現在検討中なのだそうです。

MBCの浦項支局では、この問題になかなか腰を上げない行政の背中を押すために積極的にこの問題を取り上げてきましたが、今回、かつて水銀汚染による大きな過ちを経験した水俣を取材し、ニュース番組のなかで<兄山江の水銀汚染、水俣から学ぶ>というコーナーを放映したいと考えている。そのために取材のコーディネートをお願いしたいということでした。

「水俣病を繰り返さない社会をつくる」活動をしている相思社としては喜んで引き受けることにしました。
6月6日から4日間スタッフたちが水俣・熊本に滞在し取材しました。

わざわざ相思社にアクセスしてくださった意味を推し量り、被害者や市民の立場で発言できる人を取材対象に選びました。
この選択は的を得ていたようで、同じ時期に浦項の市役所の人たちも水俣に研修に来ていましたが、彼らの見学コースは、環境センター(環境省)、水俣病資料館(水俣市)、チッソ(JNC)というもので、私たちとは全く対称的でした。

韓国は、先の大統領罷免運動に見られたように、<市民>と<行政・企業>という対立軸がとてもはっきりしていますが、それを支えているのは、然るべきときにマスコミ・メディアがきちんと市民の側に立ってくれるからだと思いました。
MBCというのは、日本ではいわゆる「韓流ドラマ」として有名で、とくだんに硬派だとか、社会派の放送局というわけではありません。

さて、浦項の汚染はどのようなものかというと、場所によってはかつての百間排水口レベルの汚染箇所もあります。左上が兄山江、右上が海です。
浦項の水銀汚染図(グリーンポストコリア2016/10/10より) 写真は2016年10月に浦項市が公表したものです。浦項鉄鋼工業団地一帯であり、表は慶尚北道保健環境研究院が昨年8月30日、兄山江の2本の支流(青い線)で堆積物を採取して調査した水銀調査結果表です。 14箇所のポイントで基準値(0.07㎎/㎏)を超過しました。(表内のハングルを一部日本語に加工しています)
mg/kgの値はppmと同じです。韓国の土壌堆積物の基準値は0.07mg/kg(詳しい検出方法は不明)です。堆積がどの程度の深さに及んでいるか等、汚染物質の総量もわかりません。

兄山江河口ではシジミから0.7ppm検出、小魚からも0.6ppm検出されました(国立水産物品質管理院が調査。2016年8月15日発表)。総水銀の値ですが、魚介類ですのでほぼメチル水銀である可能性が高いと思います。
韓国の魚介類の水銀規制値は総水銀値で0.5mg/kg=ppm。韓国の国立環境科学院も「韓国の河川でこれだけ深刻な水銀汚染は無い」と言っています。
内水面漁業の許可は現在停止されているそうです。

参考までに、日本の基準値は、土壌では15mg/kg、土壌の溶出基準では0.0005mg/kgです。地下水では0.0005mg/kg。海水や淡水の底質の除去基準は25mg/kgです。魚介類の暫定基準値が総水銀値で0.4mg/kg(ppm)です。

この水銀汚染事件では気になるポイントが3つあります。
ひとつは浦項市は韓国有数の港湾工業都市で、POSCO(旧名:浦項総合製鉄)という韓国最大の製鉄会社があります。浦項市はその「工場城下町」なのです。水銀汚染は工場に近辺ほど濃厚であり、多くの市民は工場に容疑をかけています。しかし発生源や経路が今だ明らかにされていません。

もう一つは、水産・海産も盛んに行われている場所であるということ。特にシジミが名産。今回、最初にシジミに汚染が見つかりました。

そして、問題が発覚したとき、ちょうど兄山江流域は水上レジャータウン建設計画が実現化する運びとなったところでした。行政側の対応の遅れにはそういった背景もあったと思われます。

番組は6月19~22まで4回にわたり放送されました。
YouTubeに上がっています。(MBCがアップしたものです)

補足:
「兄山江の水銀汚染、水俣から学ぶ」は企画時のタイトルでした。
放映時は、兄山江水銀汚染企画取材「水俣病~苦痛の60年~」となっていました。

第1回(2017/06/19) 7分 32秒から
主な出演:患者の生駒秀夫さんや水俣病協働センターのみなさん、医師の緒方俊一郎さん、国水研の坂本峰至さん。

第2回(2017/06/20) 8分 51秒から
主な出演:魚屋の中村祐幸さん、茂道の石本譲治さん。

第3回(2017/06/21) 6分 15秒から
市役所の一期崎充さん、熊本学園大学の中地重晴さん。

第4回(2017/06/22) 7分 37秒から
中地重晴さん、坂本峰至さん、緒方俊一郎さん

(相思社は取材のコーディネートをしましたが、番組の監修はしておりません。)

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