熊本県立大学で録画講話

葛西伸夫

熊本県立大学の「新熊本学」という枠の共通科目で講演させてもらって今年で三回目になります。一月は、コロナの影響で在宅授業となり、録画によるビデオ講演となりました。
県立大は、学生の九割が県内出身。つまり、九割の学生が、ある型にはまった「水俣病教育」を受けているのです。そういう彼らに、学校教育で教わる水俣病とは全く違う観点から、新たに関心を持ち直してほしいと思っていつも話をしています。
今回の私の話は、水俣病と、私が任意に抽出した歴史年表とを並べてスクリーンに映しながら進めていきました。概要はこんな話です。
明治後期以降、チッソを含む日本の新興企業は、戦争や侵略とともに爆発的な成長を遂げていった。そしてやがては財界が戦争(軍需・領土)を求めるようになった。戦争が起こされ、敗戦後、急激な経済の立て直しのなかで水俣病のような公害を発生させた。法整備で公害が抑制されようになると、アジアの軍政諸国に公害が輸出された。冷戦時代後期、原発が軍備・軍需としての動機をひそめて世界中で造られ、これまで大事故が三回起った。
以上のような話をした最後に«このように、公害とは、戦争や、事故などと根が同じでなのである。では、その「根」の正体とはいったい何か、論ぜよ。»という、難問を課題として出しました。もっとも、私の話に根本から異を唱えるのも可、としました。
県立大生は生真面目で、これまではまるで私の話のテープ起こしのようなレポートが返ってきてました。努力と労力は伝わるけど、考えてくれる感触がなく、虚しく思っていたのです。
授業のビデオ公開が終わり二月に入ってから、約三百人分のレポートが送られてきました。苦労の跡が行間にいろんなかたちで滲んでいて、少し申し訳ない気持ちになりましたが、水俣出身の学生が「これまでの水俣病の授業のなかで一番よかった」と書いてくれていて、すべてが報われた気持ちになりました。
課題には約四割の学生が「欲望(欲求)」という単語を使って解答していました。「資本主義経済」と書いたひとは三人いました。私は授業のウェブサイトのなかで総評のようなものを、約千六百字で返しました。概要は次のようなものです。
私の用意した正解は「資本主義経済」でした。でも、考えてもらうことが目的だったのでその正解は求めません。「欲望」も及第点です。なぜなら、資本主義経済とは、カネと商品を媒介に、欲望を創り出し、欲望が社会を動かす「からくり」だからです。この仕組みは、幸せを永遠に先送りにし、地球にはゴミと虚無しか残しません。水俣病の初期の犠牲者は、不知火海の海辺で魚を捕り、食し、必要なものは魚と交換しながら、日々を幸せに暮らしていた人々でした。彼らの犠牲をカネで補償するのがいま私たちが棲んでいる社会です。水俣は、資本主義経済が、かけがえのないものを収奪していった傷口が、いまだ血膿を滲ませているところです。その傷口から、現代社会を見つめなおしていただくことが私の願いです

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